「民俗学の旅」宮本常一著
宮本常一氏は、山口県周防大島に生まれ、渋沢敬三に見込まれて民俗学の道に入り、生涯にわたって全国をくまなく歩き続け、膨大な記録を残しました。「民俗学の旅」には、宮本氏の生き方に影響を与えた祖父母や父母の教え、郵便局員時代・小学校教員時代の経験、柳田国男、渋沢敬三との関わりから、その後進んだ道について、とても分かりやすい語り口で書かれています。
宮本氏が15歳で大阪に出るときに、父が言った言葉があります。宮本氏はこの言葉に導かれるように、その後の人生を歩んでいきました。以下の抜粋は、まちを歩くときにとても参考になります。
(1) 汽車へ乗ったら窓から外をよく見よ、田や畑に何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか、そういうこともよく見ることだ。駅へついたら人の乗りおりに注意せよ、そしてどういう服装をしているかに気をつけよ。また、駅の荷置場にどういう荷がおかれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。
(2) 村でも町でも新しくたずねていったところはかならず高いところへ上ってみよ。そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見おろすようなことがあったら、お宮の森やお寺や目につくものをまず見、家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目をひいたものがあったら、そこへはかならずいって見ることだ。
(3) 金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの高さがわかるものだ。(P36-37)。